Episode08:夏と海辺とギターのおっさん




 あっちにもカップル。
 こっちにもカップル。
 そして目の前にもカップル。
 カップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップル力ップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップルカップル!
 どうだろう。これだけ続けて読んだらゲシュタルト崩壊したのではないだろうか。丁度今の俺の目の前がそんな感じだ。ちなみに一個だけ「ちから」と言う字が混じっている。どこにあるか気づいてから次を読むこと。……って感じの児童小説あったな。
「しゅーくん、目がイってる」
「あ、ごめん。ダークサイドに墜ちてた」
「なにその中二っぽい感じ」
 ああどうも。周りにカップルが多すぎてイライラしすぎてダークサイドに墜ちてた桂木鷲ですこんにちは。小学校高学年くらいだったでしょうか。周りで楽しそうにしている奴を見るとどうしてもイライラしてしまうという特性が身についてしまいました。……なんて嫌な奴だ。今、俺は夏祭りライブの会場となる海浜公園に来ている。いわゆる下見という奴だ。因みに哲平はなんか用事とかなんとか言って来てないので凜と二人きりというわけである。冷静になって考えてみると甚だ不本意だが傍目から見れば我々もカップルのように見えるのか……こいつとカップル……なんか嫌だ。うん、見た目だけならかわいいんだけどねえ。
「カップルなんてみんな爆発すればいいのに」
 と、俺が心で思っていることを結構大きな声で呟いてしまうッ!
 そこにシビれないッ、憧れないッ!
「思ってても言うなよ。それ」
「ごめん、我慢できなかった……あ、あれじゃない?ステージって」
「……あー、思ってたより結構でかいな」
「だね。」
 あれ、この返し方、どっかで聞いたような……だれだっけか。まぁいいや。目の前には野外ステージ、と呼んで遜色ないような感じのステージが広がっていた。観客側には青々と芝生が茂っている。ここでみんなが座って聞く、という感じか。
「こんだけ全部埋まるのか? 一地方のしょぼい夏祭りごときに」
「なんかね、毎回一組は結構有名なバンドが来たりするらしいんだよ。それ目当てに集まる人が多いんだって。」
「じゃあ俺らは前座か」
「ってことになるね」
 ファンからすればどこの馬の骨かわからんアマチュアバンドを聞かされるんだからたまったもんじゃぁないかもな。上手かったら文句はないけど。
「……ってーことは、客の目も結構シビアになりそうだな」
「むー、そーいうことだね。がんばらないとね」
 凜が空に拳を突き上げる動作をする。俺がポケットに突っ込んだ手を出すのがめんどくさかったので注視するだけで無視したら、凜が文句を言ってきた。
「しゅーくん、ノリ悪い。だから友達できないんだよ」
「お前に言われたくない」
「……ごめん」
「うん、俺もごめん」
 って、何無駄に二人でしんみり謝罪会見しあってるんだ。俺は頭を振り、空気を入れ換えるようにして遠くの方を見た。海が見える。無駄に青い。砂浜も見える。無駄に白い。波打ち際で戯れる家族やカップル(消えろ)も無駄にたくさんいる。凜も海を眺めていたようで、
「綺麗だね」
 と、一言言って黙り込んでしまった。……なんだろう。今日の凜はちょっと変な気がする。まぁ、いつも変なんだけど、今日は、なんというか、若干、分子量にすると0.0002モルぐらい、まともな女の子っぽい、というか。……そうかいつも変だから、まともっぽいと変に見えるのか。逆説的だよな。パラドキシカル!
 こんなところで口を開けたままぽかんと二人で突っ立ってるのもアレなので、その辺にあった石垣?のような場所に腰掛けた。丁度木陰になっていて、暑さを紛らわしてくれる。海風が気持ちいい。凜も隣に座った。
「しゅーくん」
「なんだよ」
「せっかく海に来たんだし青春っぽいシチュのことやらない?」
「はぁ?」
 何を言い出すんだこいつは。
「具体的に何をするんだよ」
「むー……考えてなかったけど……水切りとか?」
「俺アレできない。凜はできんの?」
「出来な。」
 そういうと凜はまた黙り込んでしまった。何だこいつ。やっぱ変じゃね? いや、つまり、凜が変だってことだから、普通で言うところのまともになるのか……。ややこしいわ! 誰だこんなこと言い出したのは! ……俺か。
 いや、でも、やっぱなんか違う。なんか「変」のベクトルが違う。いつもは変態の「変」なんだけど、今日のは調子がおかしいって意味での「変」だ。何か悪いものでも食ったのかな。
「……凜、大丈夫か?」
「何が?」
「いや、なんか、テンションがいつもと違う感じだから、悩みでもあんのかな、っと思って」
「むー、強ち間違いでもないよ。それ」
「……どういう意味だよ」
「教えなーい」
 凜は意地悪そうに笑ってまた海を眺めだした。俺はよけい困惑して、そういう笑い方も割と凜に似合うなぁとか、どうでも良いことを考えていた。つまり桂木鷲は考えるのを止めた。
「しゅーくんさー、将来の夢とかあるの?」
「なんだよ突然に。将来に悩んでたのか?」
「それも強ち間違いじゃないね」
「お前強ちって言いたいだけだろ」
「ばれたか。そういう年頃なのですよ」
「……意味わからん。んー、そうだなぁ。将来か。考えたこと無かったな」
 継ごうと思えばあの居酒屋「どっこい」を継ぐことも出来る。料理もある程度なら出来るし。……でもねぇ。居酒屋って、そんなキャラじゃなくね? 俺。あのオヤジの紺色のエプロンをつけて客と応対している姿を思い浮かべてみた……上手くトークが出来ない間抜けな店長の姿が目に浮かんだ。寒気がする。因みにだが、さっきから出ている「強ち」は「あながち」と読む。読めなかったお前はゆとり世代だ。そしてそのゆとりをゆとり世代なのにゆとりのない生き方をしている俺に分けてくれ。
「この先もずっとベースは続けるの?」
「多分な。バンドメンバーがいなくなっても一人で弾いてるのも好きだし」
「一人でベースって……変態か!」
「お前に言われたくない」
 二人して笑った。凜は、むー、と呻きながら後ろの芝生に倒れ込んだ。
「しゅーくんも寝なよ。気持ちいいよ。これ」
「遠慮しとく」
 気持ちよさそうであることは認めるがお前と添い寝はなんか嫌だ。と、言おうとしたら、首根っこを捕まれて無理矢理倒された。痛てぇ。……あ、でも、気温はこんなにクッソ暑いのに地面はひんやりしていて気持ちが良い。凜が近くに感じる。息づかいが、心臓の鼓動が、伝わってくるような気がした。うわぁ、なんかエロい。気まずくなったので会話を無理につなげる。
「お、お前は?」
「ん?」
「いや、お前、将来の夢とかあんの?」
「むー……とりあえずギターが触れる職業が良いなー」
「お前なら十分プロを目指せそうだけど」
「むー、でも、ミュージシャンは無理だと思う。そもそも今までバンドやってなかったから、こう、グルーブ感とかないし」
 何を謙遜してるんだこいつ。でも技術だけならほぼ一流だけど……こいつの場合協調性の問題があったな。本人もそれは自覚しているようで、こう続けた。
「それに、友達いなくてきっとまたひとりぼっちになっちゃう」
「んー、でも、『孤高のギタリスト』ってかっこよくね? そんな感じのキャッチフレーズで打ってるギタリストとか一人ぐらいいそうじゃない?」
「むー……なんかいっぱいいそう。それ」
「でもさ、それ全部ただのキャッチフレーズだし、実質的に孤高なのはお前ぐらいになるんじゃない?」
 孤高ってか孤独だけど。ハハハ。……俺も笑えなかった。ごめん。
「ううん、違うよ。私一人知ってるもん。実生活も『孤高』なギタリスト」
「へ?」
「いや、私にギター教えてくれた人」
「へぇ、あの親父さんに習ったんじゃないのか?」
「お父さんの本業はドラム。ギターも弾くけどあんまり上手くないよ。それなのにストラトとかレスポールとか無駄に仕入れちゃうんだよね」
 凜はそういって苦笑いしていた。てっきりあの親父さんに影響されたんだと思ってたから意外だな。あ、だからスリップノットとか言ってたのかな。スリップノットのドラムかっこいいし。※個人の感想でした。
「なんて名前のギタリストなんだ?」
「むー……実は本名わからないんだよねー。私の生涯の謎なんだよ」
「マジかよ。何て呼んでたんだ?」
「ギターのおっさん」
 身も蓋もない呼び方だな、おい。
「ちっさい時に公園に行ったら毎日鳩に囲まれてアコギ片手に歌ってるおっさんがいて」
「明らかに変質者だろそれ」
「周りのお母さん方にもそう言われてた。でも私興味があって近づいたんだよね」
 歌が綺麗だったから、と凜は続けた。凜が饒舌に自分の過去を話している。なんだか珍しい光景に見えて、可笑しかった。
「それから、毎日おっさんと喋って、色々教えてもらった」
「色々の中身を聞くのが恐ろしいのだが……」
「んーとね、ギターの弾き方でしょ? ロックの歴史でしょ? 後はオススメのバンドとか、このバンドはダメだ!って話とか、後は機材の話とか、おっさんがやってたバンドの話とか、一人暮らしの時に役立つ簡単絶品料理レシピの話とか会話の中でさりげなく下ネタを入れる方法とか飼い犬がどうとか近所のスーパーが……」
「ちょっと待った!」
「何?」
「いや、今なんかおかしいの入らなかったか後半の方で!」
「簡単絶品料理?」
「違う! いや、それもだいぶおかしいけど、その次!」
「飼い犬?」
「違うよわざとそらしてるのかお前は! 下ネタだよ下ネタ!」
 明らかにそのおっさん変質者じゃねえか! 見知らぬ女の子に何教えてんだよ。ってか驚異の下ネタギター女を作り上げたのがそのよく知らないおっさんの力だったとは。一人の罪無き女の子の人生をぶち壊したと言っても良い……変質者と言うより犯罪者だ。
「お前、むしろそのおっさんのせいでこんな奴になったんじゃ……」
「ハハ、そうだね。」
「何悟りきったような笑い方してるんだよ! 聖職者か!」
「むしろ性色者」
「アホか!」
「むー、でも私、おっさんには感謝してるよ。だっておっさんに出会わなかったら、音楽始めなかったもん」
「そうなのか?」
 家が楽器屋なのにな、と言おうとして止めた。だって俺の家が居酒屋だからって俺が酒に詳しいとか酒の肴を作るのが上手いとか言う訳じゃないし。そりゃそうか。
「おっさんがいなかったら、ギターも始めなかったし、てっちゃんにも、しゅーくんにも出会えなかったし」
「そうか……」
 じゃあ俺は感謝しとかなきゃ、とは言えなかった。凜や哲平に出会えたことは、ま、そりゃ良かったことなんだけど……恥ずかしいわ!
「でも、最近は出会わないんだよね。忙しいのかな。あ、ちなみにさっき言った最初におっさんから聞いた曲何だったと思う?」
「ストーンコールドブッシュ?」
 即答してしまった俺がいた。
「違う違う。でも、それもおっさんに教えてもらったんだけどね」
「じゃあ強ち間違いじゃないな。ハハハ」
 ってかストーンコールドブッシュは頑張っても「綺麗な歌」にはしにくいな。ところで、読めたか? 読めなかったら2200文字ほど前に戻って読みなおすこと。
「で、何だと思う?」
「ヒントは? 今北産業…じゃなかった三行で」
「ブリットポップ。超有名。しゅーくんも絶対知ってる」
「んん? オアシスのなんか? リブフォーエバーとか?」
「むー、惜しい! ニアピン! ニアピン賞に歌ってあげる」
 俺がいらねーよと言う前に凜は柔らかい声で歌い出した。ああ、この曲か、この曲ならよく知っている。俺にとっても大事な、思い出の曲だ。凜の歌を黙って目を閉じて聞いていたら、突然睡魔に襲われていた。……実は昨日夜更かししてた関係で眠い……夜更かしの理由は聞くんじゃないぞ! それがマナーという奴だ!
 必死に起きておこうとして、凜の歌声に耳を傾けた。
 風が草を揺らす音と波の音と凜の声がポリフォニーを奏でる。
 さわやかなメロディーが耳元で甘く響く。
 ――ああ、そうだ。この曲は、
 だめだ、耐えきれない。
 薄れゆく意識の中で曲名がはっきりと頭の中に浮かび上がった。
 ――ホワットエバー。



 私がアカペラで気持ちよく歌っていたというのに、気がつくとしゅーくんは寝ていた。
 せっかく歌ってあげたのに失礼な、と思ったけど寝顔が、もう、なんというか、うん、神々しいくらいに「イケメン!」だったのでそのまま見ていた。……夜更かしでもしたのかな。私も確かに昨日は夜更かしして深夜アニメ観てたけど……しゅーくんもアニメみてたのかな? そんなわけ無いか、いや、あるかも。しゅーくんなら。
 しゅーくんの寝顔ばっかり見てるのも変態みたいなので、私も頭を腕の上に置いて目を閉じて何も考えないようにした。……でも無理だった。いつものアレが来た。



 ここんところ最近、目を閉じる度に「それ」がくる。
 何て言ったら良いんだろうか。胸の奥の部分にある芯みたいな部分を布で締め付けられるような感覚。寝る前なんかだと、息苦しさで目が覚める。
「病気なのかな。これ」
 と、昨日の学校の練習室(仮)からの帰り道にてっちゃんに聞いてみた。バスの定期が切れてた関係で、学校まで自転車で来てたから帰り道がてっちゃんと一緒になったんだ。てっちゃんは信号で止まった時に少し考えながら聞き返した。
「わからん……なんかもっと具体的に言えないか?」
「んーとね……『さようならドラ○もん』って見た?」
「ああ、アレねぇ」
「アレの、の○太がジャ○アンと殴り合ってるシーンから最後までにかけて、キューンってなる感覚と似てる」
「……なぜ伏せ字を使ってまでその例えを用いる必要があった」
「むー、一昨日見たんだよ」
 今思い出しただけで泣ける。もうアレが最終回で良かったんじゃないかな。そしたらあのよくわからん都市伝説みたいなのも生まれなかったのに。信号が緑に変わる。てっちゃんの自転車が走り出した。私も追いかける。ギターとエフェクターケースが重い。
「まぁ、でも、わかった。それはアレだ。病気じゃない」
「そうなの?」
「お前、鷲のこと、どう思う?」
「え? しゅーくんがなんか関係あるの?」
 てっちゃんはスッと目を細めて私を見た。さいきんてっちゃんの顔がどんな感情を表してるのか少しだけどわかるようになってきた。今は多分普通の人で言うところの優しい目とか温かい目に相当するんだと思う。……どう見てもガン飛ばしてるようにしか見えないんだけど。いや、案外本気でガン飛ばしてんのかもね。
「いいから、どう思う?」
「うん、イケメン」
「それは激しく同意できる。俺もあんな風に生まれたかっ、じゃなくて、外見じゃなくて、人間性とかそーいうのだよ。」
「むー……」
 しゅーくんの人間性ねぇ。初めてあった時からの記憶を走馬燈のように頭の中でぐるぐるさせてみた。死ぬ瞬間ってこんな感じなのかな。初めて出会った時、曲を一曲あわせた時、無意味に抱きしめられた瞬間あああああああああああなんでもない、あと一緒に練習してた時、一緒にカラオケ行った時――。ほんの三ヶ月くらいのことなのに、凄く楽しかった気がする。そしてそんな私が出した結論は……
「内弁慶じゃない?」
「は?」
「私達とならベラベラしゃべれるのに、クラスじゃずっと黙ってるじゃん」
「それはお前も俺もそうだろ」
「その通りですごめんなさい」
 慣れてる人となら普通に話せるってのは当たり前なんだけど。問題は慣れてない人とどう付き合うかってことなんだよね。むー……難しい。
「なんか、こう、プラスポイントとかないのか?」
「うーん、そーだねー、実はいざとなるとアグレッシブだよね。だって、私とか、てっちゃんをバンドに引き込むくらいの行動力はあるんだよ?」
「それ実は凄い行動力だよな。……初めてあった時はなぜか殴り合いになったんだけどな」
「ますますアグレッシブ!」
 「シ」にアクセントをつけるのがポイント。アグレッシブ! そんな歌があった気がする。アグレッシ部!
「それで? 他には?」
「むー……わかんない」
「もっと色々あるんじゃねえか? よくよく考えてみろ」
 てっちゃんの家の近くまで来た。あの交差点で二手に分かれる。てっちゃんは優しい顔(いや、どう見ても怖いんだけど多分優しい顔のつもりなんでしょう)で笑い、手を小さく振りながらこう続けた。
「……そしたらわかる。何が苦しいのかな」
「うん、ありがと、また、明日公園でね!」
 そういって別れて数十メートル行ったところで、てっちゃんが鬼の形相で引き返してきた。そろそろ通報されるんじゃないだろうかこの人。
「そうだ、明日、俺どうしても外せない用事があるんだった。下見には二人で行ってきてくれ」
「は?え?何で?」
 そういっててっちゃんは走り去ってしまった。絶対嘘じゃん。あれ。だって一回あそこでやったことあるなら下見の必要なんて皆無だもんね。私も行ったことはある。覚えてないけど。
 だがしかし! 正直てっちゃんのヒントのせいでよけい混乱した。いや、ヒントかどうかも良くわかんなかったな。しゅーくん? なんでしゅーくんなの?



 目を開けた。しゅーくんはまだ寝ている。規則的なリズムで寝息を立てている。至近距離で観察できる機会なんて滅多にないのでせっかくだからじっくり鑑賞することにした。うーん、イケメン!……うん、それはどうでも良くって。
 それで、昨日てっちゃんに言われてからずっとしゅーくんの良いところを考えていたんだっけ。結局よくわかんなっちゃったんだけどね。でも、今、よくよく考えてみたら十分以上私の相手してくれた男子ってしゅーくんが初めてじゃないかなぁ。……なんて腐りきったプロフィール! もはや笑えない! ……ってか、しゅーくんは、私とかてっちゃんみたいなアレな人でも分け隔て無く接する。仲良くない人とは怖じ気づいてあんまりしゃべれないけど、仲の良い人同士なら普通にしゃべれるし、気も遣う。窮すると臭いセリフ吐いたり、リア充に対しては無駄に僻んじゃったりするけど、基本的には優しい人間なんだ。そうか、しゅーくんは優しいのか。これ良いところだよね。
 その時、突然、目を閉じてないのにここで「アレ」が来た。今までで一番大きい。それに今、初めて自覚したんだけど、しゅーくんがものすごく近くにいる、と言うことがなんだか恥ずかしいような気がする! いやいや、悶々としてて気づかなかったけど冷静になって考えたら添い寝じゃんこれ! 恥ずかしい! 背筋がゾクゾクしてしゅーくんから少し距離をとった。しゅーくんの体全体が見える。長い足、綺麗な顔立ち、肉付きの少ない体、妙に長い睫毛、一本だけ見える白髪。最後は余計か。――ともかく、しゅーくんの全部が、私の全部を揺さぶった。



 ……ああ、そうか、わかった。このところずっと心の中にわだかまっていたことがスッと溶けるように無くなっていく。なんでこんな単純なことに気づかなかったのかな。まぁ、初めてだってのもあるか。いままで漫画とか小説の中でしか知らなかった感情が、私の中にもあったんだ。



 ――私、この人のことが、
 好きなんだ。



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