Episode05: みんなの知らない奴等のホニャララ




 カラオケの何が楽しいのか、皆さんは考えたことがあるだろうか。
 歌の上手い人に取っては自分のうまさをアピールする場なのだから、楽しくて仕方ないだろうが、歌の下手な人にとってはただのストレス要因に他ならないはずだ。あるいは歌の上手い下手に関わらず、人前で声を出して歌うということ自体がストレス解消になったりするのかもしれないが、理屈がよくわからん。だって正直家の風呂場で大声で歌っている方が楽しいにきまってるじゃないか――。さて、ここで俺は推奨する。「一人カラオケ」を。
 一人でカラオケに行けば、周囲の友達に気を遣うことなく歌いまくれる。好きな曲入れたい放題、歌いたい放題だ。しかもまだ練習ができてない曲が練習できる。これで他の人と一緒にカラオケに行くときのために練習しておける。まさに一石二鳥、すばらしいかな一人カラオケ。
 ただし店員からの変な目線に耐えなければならない。これは仕方ない。だが皆さんのたゆまぬ努力によって一人カラオケが普及すれば、そのような奇異の目線も無くなっていくはずだ。間違いない。一人カラオケの未来に栄光あれ!
「てっちゃん、何後ろ向きなモノローグ入れてんの。」
「一人カラオケのすばらしさについて想像してたところ……ってか俺のモノローグはお前は読んじゃダメだろ」
「私ほどの人間になるとその部分も読めることがあるのです」
「嘘つけ」
 やあ、みなさん、どうも、阪上哲平です。いつものイケメン語り手野郎が不在のため代役的な感じで俺の登場です。……誰に話しかけてんだって話ですけどね。そして、今、俺の眼の前には私服に身を包んだ我がバンドのギターボーカルが立っていて……見た目がものすごく可愛いけれど発言が少々というか大分狂っているという難点があります。
「でも良く考えてみると嘘ついた奴に『嘘つけ』って変な感じだよね」
「アレは『そんなすぐばれるような嘘つくぐらいなら何度でもつけ』って意味らしいぜ。」
「むー……わかったようなわからんような」
「いや、わからなくてもいいだろ。これ」
「っていうか、しゅーくんは? まだ?」
「いや、なんか、メールが来たんだけど、用事があるから少し遅れるし先入っててってさ」
「むー。リーダーがいないと始まんないじゃん」
 今俺たちはカラオケ屋の前で立ち往生している。一人カラオケ派な俺がなぜこんなところに複数人で来ているかというと、理由は昨日の放課後にさかのぼる……。



 レフトオーバーズ結成の次の日、俺たちはまたあの練習室(仮)に集まって練習もといジャムっていて、チャイムが鳴る十分前になったところで片付けていると、鷲が切り出した。
「そういえばさ、来月の初めなんだけど学校内で定期ライブがあるんだよね」
「定期ライブ?」
「ああ、てっちゃんは知らないのか。一年から三年の20バンドのうち、最低でも3つがでてるから、隔月で定期ライブができるんだよ」
「で、あとちょっとしか練習期間がないんだけど、俺らが出るのはどうか、と思って」
 なるほど、そんなものがあるのか。ってか隔月ってすごいペースだし……まとめて20もバンドがあるってのも凄い話だな。意識したこと無かったけどこの学校は結構軽音が盛んみたいなんだな。……少なくとも廃部寸前でベースとキーボードとドラムはいるのになぜか大事なギターがいないとかそんな感じでは無いんだな。
「いや、いいけど、曲は何にすんの?」
「出るなら早く決めなきゃならないんだ。さっさと練習しないと仕上がらないだろうし」
「当然全部レッチリのコピーだよね」
「……アホか。どこからその当然が来るんだよ」
「むー」
 鷲が手厳しく突っ込む。……この女は見張ってないと他人をすぐ自分の土俵に放り込もうとする。そういう意味では会話のバランス取りな鷲とは相性がいいのかもしれない。
「それで、曲決めのために明日カラオケに行こうという話で」
「はぁ?なんでカラオケで?」
「カラオケ屋なら聴きたい曲がすぐに聴けるだろ?歌えるかどうかも確かめられるし」
 なるほど。確かに選曲にはぴったしの場所だ。カラオケ屋をそんな風に利用することなんて考えたこともなかった。頭良いな、こいつ。それでその後、どこのカラオケ屋かは後でメールで連絡することになり、そして約束の午後一時に至る、と言うわけである。



 はい、回想終わり。やけにあっさりした回想だった。正直脚色する場面も能力もないのでこんなもんである。鷲くん早く帰ってきて!
「いらっしゃ、いませ!」
 店内に入ると店員が挨拶しかけて俺の顔を見て一瞬怯んだようだ。あり得ないところで文章が切れている。……失礼な奴だ。
「イラッシャ・イマセって世界史に出てきそうだよね」
「そうだけどでかい声で言うな」
「二名様のご利用ですか?」
 店員は気を取り直して営業スマイルで俺たちに聞いてくる。……口の左端が引きつっている。俺が言えた身分ではないと思うが思わずこう思った。……頑張れ。
「いや、後でもう一人来るので、えーと、三人でフリータイムで。機種は何でも良いです。あと、これ学生証」
「少々お待ち下さい……2階の204号室でよろしいでしょうか」
「はい」
 ってかよろしいもクソも選べないだろ。おい。接客用マニュアルって良く考えると結構意味わからんこと多いよな。それともう一つ、俺が結構普通に店員に対応しているように見える人は、一度俺のセリフを全部ドス声で再生してみると良い。……ほどよく店員の気持ちがわかるだろう。
「お連れ様が到着なさいましたら、カウンターで報告していただけるようご連絡ください」
「はいはい」
「それでは、当店はフリードリンク制となっておりますので、2階のドリンクバーコーナーでセルフサービスでご自由にお取り下さい」
 ごゆっくりどうぞ、というお決まりのセリフに送り出されて、俺たちは2階の階段へと向かっていった。凜はまるで外国へ来たかのようにきょろきょろしている。
「何キョドってんだよ」
「カラオケの他の部屋ってなんか気にならない? 何歌ってんだろって」
「ならねえよ」
 そんなことしたら他のお客さんに失礼だろうが。良い営業妨害だ。
「そういえばさ、聞こうと思ってたんだけど、凜って一ノ瀬楽器店の関係者?」
 一ノ瀬楽器店というのは、我が家から自転車で一〇分弱くらいのところにある俺の行きつけの、といってもそこまで頻繁には行かないのだが、楽器店である。あまりない名字だから関係者なのかと思っていたのだ。
「あー、それ私の家」
「マジで?!」
「頻繁に来てるの? 私たまに店番してるから……一回見たら忘れない顔なのになんで知らなかったんだろ」
「あー……スティック折れたら買いに行くぐらいでそんなに頻繁に行かないからなぁ。たまに譜面探しに行くけど」
 あまり譜面を見ない主義なので、セッションの時たいてい耳コピや気分プレイで済ますことが多いのだ。我ながらいい加減なドラマーである。
「でもお父さんなら顔知ってるかも」
「ああ。初対面で顔面についてボロカス言われた」
「……なんかゴメン」
「うん」
 あのおっさん、一ノ瀬父は、ドラムが上手いと言う関係もあって、店に行く度に話すのだが、必ず俺の顔の話でいじられる。多分嫌がらせだ。一ノ瀬楽器店には異様に高いギターが多い。多分一ノ瀬父の趣味なのだろう。あの父親にしてこの娘ありって感じだ。こいつは変人以下の匂いがプンプンするぜッ!
 ここで俺の携帯が鳴った。正確に言うとマナーモードなので、携帯が震えた、と言うのが正しい。開いてみると鷲からメールだった。
『今から行く。あと十分くらい。遅れてゴメン』
「なんか殺風景なメールだね。」
「人の携帯をのぞき込むなよ……でも絵文字ぐらいつけろよ、とは思う」
「ねぇ、しゅーくんの分もフリードリンクとってこようよ。それでねぇ、私ドリンクバーってジュースを混ぜて実験するために存在すると思う!」
「……嫌な予感しかしないな。おい」
 その後鷲は学ぶ事になるだろう。
 オレンジジュースとコーラは混ぜてはいけない。

 

「……というわけで、バンドメンバーがそろいました」
「おめ。」
「軽っ! なんかリアクション軽くない?!」
「まぁ私の鷲ならやってくれると思ってたからね」
「……いつから俺はお前の所有物になってたんだよ」
「フッ! 甘いな! 生まれたときからだ!」
「いや意味わからん」
 あ、どうも、語り手変わりまして桂木鷲です。今病院で柚木にレフトオーバーズ結成のお知らせをしに来ています。そういえば、最近、巷でイケメンでリア充という根も葉もない噂を流されていますが、そんなことありえません。彼女いない歴=年齢なフツメンです。漢字にすると仏面、つまり仏頂面です。もちろんリア充なんてことはありません。好きな人は(現在目の前に)いますが、告白する勇気もないただのチキン野郎です。生きててすいません。……はぁ。
「最初に三人でやった曲がマイノリティって……なんかぴったりすぎて気持ち悪いね」
「提案した俺が言うのも何だけどぴったりすぎて気持ち悪かった。……演奏もだけど」
 怖いくらいにぴったりだった。あのとき感動しすぎて何が起きたんだかわからなかったが、よくよく思い返してみると一発合わせであのグルーヴ感は不自然すぎる。どんなご都合主義だよ。
「結局みんな基礎能力が高いってことなんでしょ? 一発でそれだけあったのなら、きちんと練習したらすごいことになるんじゃない?」
「それは確かに」
 そこは俺も期待でワクワクテカテカしてるところだ。「テカテカ」の語感が良い。
「……私も聞きたいな。レフトオーバーズ」
「しばらく学校の外に出る予定は今のところないからなぁ」
「なんかあったらでなよ、私も聞きに行くから」
「まぁどっかのタイミングでは出ると思うけど、お前は病院出てもしばらく家から出たらダメだろ。体気遣え」
「わかってるよー……言ってみただけ。あ、でも鷲の家には行くからね。おっちゃんにメタリカのCD返してないし。入院前に借りてたやつ」
「俺が取りに行くから!」
「……じゃあ鷲と会えないじゃん」
「っ……、だから俺が家に行くから、会えるだろ」
 こいつはたまにこういうドキっとするようなことを言うから。ホレテマウヤロー!
「ふふん、今ドキっとしたでしょ」
「わざとかよ! なんでそんなウザいことを……」
「キャラ作り的な?」
「それをなぜ数年来の幼馴染みにするんだ」
 お互いに性格を知り尽くしてる相手に対してキャラ作りなんかしたって全く意味がないだろ。
「ってか、鷲、カラオケ行かなくて良いの?」
「いや、やっぱ行くのやめよっかな……お前と一緒にいたいし」
 仕返ししてやった。ざまーみやがれ。……実は本音なのは内緒だ。だが、俺の恥ずかしい発言を聞いた柚木は、
「フフン!」
 鼻で笑いやがった!
「鷲、作ってるってバレバレ。むしろレバレバ」
「この野郎……なんだよレバレバって! 今消費した俺の羞恥心まとめて返せよ!」
「ほらほら、早く行ってきなよ。リーダーがいなかったら選曲なんてできないでしょ!」
「わかったよ。……もう。」
 俺はカバンをひっつかんで大股で病室を出て行った。約束した時間を過ぎてしまった。急いで行かないと。……振り返ってドアを閉めるとき、少し柚木の顔が見えた。あれ? 赤くなってないか? もしかして俺の攻撃が効いたとでも言うのか!……気のせいか。柚木に限ってそれはない。俺の脳が補正したに違いない。主に願望で。



 俺が哲平に教えてもらった部屋に行くと、二人の座っているソファに丁度俺用に空けておいたと言わんばかりのスペースがあって、そしてその前には謎の禍々しい臭気を発する液体がコップになみなみとつがれていた。
「……何だコレは」
「レイトフォージュース。遅れてきた人専用!」
 凜が嬉しそうに俺の方に差し出す。近づけるな! なんか臭い! って言うかその名前だと「ジュースに遅れた」って意味になるだろ、おい、意味わかんねえよ! 英語勉強し直せ!
「もしかして飲めってことか? これを?」
「飲まなきゃレフトオーバーズ解散だからね」
「意味わからん!」
「まぁ遅れてきた奴が悪いからなぁ。同情はするが……あきらめることだな」
 哲平も敵のようだ。仕方ない……柚木のところでダラダラしていた俺が一方的に悪い。俺は目を閉じて鼻をつまんで一気に飲み干した。その瞬間、
「おえぇぇええqあwせdrftgyふじこlp;@!」
「吐くイケメン! なんか新しいジャンルだね!」
「いいいいイケメンじゃねえしそんなジャンルいらねぇうぇええぇぇえ! 舌の上に残るっ!」
 なんだこの味……コーラとオレンジジュースと、コーヒーと……もうわけわからん!
「コカ○ーラとク○のオレンジとネス○フェのコーヒーとリアル○ールドだ」
「なんでリア○ゴールドがあんだよ!そしてなぜそれを混ぜようと思った!」
「しらねぇよ。シ○ックスに言え。それに混ぜたのは凜だ」
「リア○ゴールド混ぜろって言ったのはてっちゃんでしょー」
「あれ?そうだっけ?」
「ってかさっきから危ない会話しすぎだろ!伏せ字だらけじゃねえか!」
「しゅーくん。権力とか既成のモラルなんかに負けちゃだめだよ。I don't need your authority. Down with the moral majority.だよ」
「名曲をそういう使い方するんじゃねえよ!」
「……さて、気をとりなおして。しゅーくんも来たし選曲するか!」
「はぁ……それは俺のセリフだ。」
 気を取り直すべきはまさに俺だ。舌の上に嫌な味が残っている。水欲しい。水。
「しゅーくん、細かいことを気にしちゃあダメでごわす!」
「じゃあお前リーダーやれよ」
「それは嫌だ」
 もう消えて失せろよこいつ。哲平が上手く話を次いでくれた。
「鷲、なんか選ぶ基準になる、なんか、こう、テーマみたいなのはあるのか。なんか、こういうライブにしようぜ! みたいな」
「えーと……ライブのテーマねぇ……。」
「もちろん全世界に下ネタの力を波及させ……」
「「一回黙れ」」
「あぅー」
 哲平と俺の声が完璧に重なってポリフォニーを奏でた。そういえば、俺がいない時二人はどうしてたんだろう……哲平の突っ込み疲れた顔を見ていると、どうやらこの下ネタ女はまた何かいらないことばかりしていたようだ。
「実は昨日考えてたんだけど……ライブのテーマってか目標なんだけど、『意外性』で行こうと思って」
「どういう意味だ?」
「実はこの三人ってクラスで浮いてるじゃない」
「それ、『実は』、じゃないよね」
「むしろ自明の事実だな」
 凜と哲平が反意を唱えて二人でうなずき合う。なんだその後ろ向きの共通認識は。
「陰気な地味男桂木、強面ヤクザ阪上、下ネタ女一ノ瀬。この三人が同時にステージに出てきたらだなぁ……」
「うわぁーって空気になっちゃうよね。うん」
「……今から考えただけで鳥肌立ってきた」
「そこでだ」
 コツン。俺は空になったレイトフォージュースのコップ(内側が若干ネバネバしている)をテーブルにたたきつけた。
「その三人が入学したての一年生とは思えない技術でみんなが知ってるような高校生にはちょっと難しいような曲を一気にやりきる。そしたら、うわーすげぇ、ってなって、みんな俺らのこと少しは見直すんじゃあないかな」
「なるほど。俺らのイメージアップ、って訳だな」
「真面目なしゅーくんにしては結構世俗的な目標だよね」
 痛いところを突かれた。
「…いいじゃん、俺真面目じゃねえし。ってかお前俺のこと真面目だと思ってたのか」
「確かに凜と比べたら真面目だよな」
「むー、えー、私真面目だしー」
 あきれて二の句がつげねぇ。お前が真面目なら全世界の人間の90%以上は真面目だろう。
「……まぁいいや。だから基本的には、三人が好きな曲を一曲ずつで、ただしある程度知名度と難易度が高い曲、にしようと思ったんだけど。質問とか反対とかある?」
 お、自分で言うのも何だけどなんかリーダーっぽくなってきた。小中学校の時はクラスに必ず何人かいるリーダー気質の奴とか仕切りたがり奴の影にこそこそついて行くようにしていた俺がこんな立場になるとは……自分の成長に感涙ものである。全米が泣いた。うん。俺が感慨に耽っていると少し考えていた凜が勢いよく手を挙げた。
「はい、先生!」
「俺はいつから先生になったんだ!」
「それ、ホルモンでもおkですか?」
「おk。……ってかOK。でも、知名度は曲によるよな」
「はい、先生」
「……お前まで悪ノリするか」
 今度は哲平が手を挙げた。これじゃあ本格的に先生だ。……個人的な考えであるが教師は本当にならない方が良い職業ベスト1だ。生徒には反抗されるし時間外労働なんてザラだし……まぁ公務員なんだから仕方ないといっちゃあ仕方ない。(※個人の感想です。)
「知名度、って言われてもよくわからんのだけど、最近の高校生ってどんな曲聞くんだ?」
「俺もそう思って昨日大嶋さんに聞いておいた」
「誰だそれ。」
「ああ、同じクラスの人」
「大嶋さんって、一昨日教室にいた、ポニーテールとシュシュの?」
「なんでそんな某アキバの女の子たちみたいな言い方を……」
 あ、でも、本人の名前もA○Bみたいだよな。ハハハ。
「あ、それで、大嶋さん情報によると、『高校生の内で流行ってるのは、バンプ、アジカン、チャットモンチー、エルレ、あとラッドとか』、だってさ」
 大嶋さんのメールを直接読み上げる。絵文字が効果的に使われたかわいらしい、むしろファンシーなメールだ。俺にはとうてい真似できそうにもない。ちなみに、大嶋さんセレクトに俺が好きなランクヘッドが入ってなかったことに軽くショックを覚えたのは内緒だ。
「むー。なんか全部ミーハーなのばっかだね。(※個人の感想です。)」
「仕方ないだろ。高校生なんてみんなミーハーなんだから。(※個人の感想です。)」
「お前ら最後にそれつけときゃ勝ちだと思ってないか?」
「ばれたか。」
 通販番組とかだとやりたい放題やってるよな。同じようなことばで、「みつを」ってつけたら何でも感動できる言葉に見えるってのは、どうかなぁ。みつを。
「だってこれつけたら何言ってもいいもんね。しゅーくんイケメンリア充!(※みんなの感想です。)」
「おい、全体的に間違ってるぞ。だから俺はイケメンでもリア充でもない」
 中学の時だってオオサンショウウオに似てると影で言われたことがあったが……アレはなんだったんだろうか。オオサンショウウオって名前は有名だけど実際の姿を記憶している人は少ない気がするんだけど。それはさておき、哲平がカラオケの選曲マシーンをしげしげと見ながら話を元に戻した。
「あ、でも、俺ラッドは結構好きだ。中学の時も結構コピーでやってたし……」
 そういえば俺も中学の時にラッドの『閉じた光』をやった。リードギターの優がものすごくやりたがってやることになったんだったっけ。そういえばアイツ、どうしてるかな……。俺は中学の時の戦友とラッドウィンプスに思いをはせながら哲平に返した。
「……確かに、サードアルバムぐらいまでは個性が強くて良かったのになぁ。最近はバンプっぽくなってきておもしろく無くなってきた気がする」
「俺も最近出た曲は知らないな。『揶揄』とか凜が好きそうだけどな」
「えー、どんな曲?」
「えー……歌詞がのっけから下ネタ」
「多分好き」
 ……即答かよ!



 俺が入室から一時間。選曲は難航を極めた。
「『マイファーストキス』は?キテレツ知らなくても有名な曲だし……」
「エロくないからダメ!」
「――その選考基準いい加減に捨てろ。でもその曲結構簡単だしあんまりすげえってならないんじゃないかな」
「そうか。うむ、あー、なにがいいいんだろうなぁ。……わからん」
 哲平が頭を抱え込む。凜は目を輝かせながら選曲マシーンを見ている。
「しゅーくんなら『握れっっ!』か『ビキニ・スポーツ・ポンチン』どっちがいい?」
「――どっちもやだ。ホルモンなら『絶望ビリー』とか『ロッキンポ殺し』とかの方が有名でよくないか?」
「でも、有名なのってなんか嫌じゃん。」
「お前今回のライブの選曲の主旨理解してんのかよ……ってかホルモンにするにしても誰が歌うんだよ。デスボイスだろ? ってことは哲平か?」
「……俺はデスボイスじゃなくてドス声だ」
「似たようなもんだろ? ドスボイスとデスボイスって似てない?」
「似てねぇよ。アホか」
 俺と哲平がバカなことを言い合っていると、スピーカーから聞いたことのあるメロディが流れてきた。らーらららーらーららー、ららららら、えーと、この曲は……。
「ロッキンポ殺し?」
「へぇ、この曲が。実は俺ホルモンって聞いたことないんだよね」
「マジで? 意外だな。え、ってか、これ凜が歌うのか?」
 俺が驚いて凜の方を見ると凜は軽くうなずいた後、ベースのリフと同時に鼻を大きくして息を吸い込み、見事なデスボイスで歌い出したって、えええええええぇぇぇえええぇぇえぇぇえ?!
「……すげえ」
 哲平も驚いている。やはり男声のデスボイスより軽い感じだけど、それでも女声でこんな低い声普通出せないだろ。声域がよっぽど広いのだろうか。メロディックな部分もいつもの力強い声で歌っていく。凜の声は意外にホルモンにも合う。……改めて凜のスペックの高さを痛感した……最近はただの下ネタ女だと思ってました、はい、すいません。凜は歌い終わると額の汗を手でぬぐって、こっちに笑いかけた。
「どう?いけそう?」
「……女声で聞くホルモンってのもなかなかどうして」
「でもそれギターやりながらいけるのか?」
 哲平の問いに凜はエアギターをしながら少し考えて答えた。
「いける。多分」
 いや、そこは普通いけねえよ。もうすごすぎてアホに見えてきた。



 ――さて、こんな感じで選曲がすすみ、入室から三時間後、無事に全曲が決定した。
 選曲の結果は本番のお楽しみ!みんなの度肝を抜くような選曲だよ!
 ……ってほんと誰に話しかけてるんだろうなこれ。
 とりあえず、俺はこの三人での初ライブを楽しみにしていた。
 また何かが起こる。そんな気がしてならなかった。




BACKTOPNEXT



[コメント] 感想、指摘などを頂けると大変うれしいです。コメント返信はここをクリック。

PAGE TOP

inserted by FC2 system